不倫慰謝料請求と裁判|訴訟のタイミングと流れ

文責:所長 弁護士 白方太郎

最終更新日:2025年01月07日

1 不倫慰謝料裁判の基本

⑴ 不倫慰謝料請求

 配偶者が不倫していたことが発覚したとき、不倫された側にある選択肢としては「許す・許さない」のどちらかです。

 許せない場合は、離婚や不倫慰謝料請求を行うことになります。

 不倫慰謝料請求は、厳密には不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)となります。

 婚姻後は、夫婦が互いに他の異性と性的な関係をもってはいけないことになっているため、これを破れば不貞行為として離婚や慰謝料の原因となります。

 不倫された配偶者は、婚姻関係を傷つけられたこと、不貞行為があったこと自体に精神的に傷つきます。

 この精神的苦痛に対し、損害賠償を認めようというのが日本の民法です。

 不倫裁判は、この不法行為に基づく損害賠償請求を民事裁判にて請求することを指します。

 ちなみに、不倫慰謝料請求は、不倫をした配偶者と不倫相手の両者が対象となります。

 

⑵ 不倫裁判

 不倫慰謝料を配偶者に請求する場合は、相手と離婚をすることも多いため、離婚と同時に慰謝料請求を進めていくこともあります。

 不倫裁判のメリットとしては、難航している請求相手との交渉を前に進められる点があげられるでしょう。

 交渉ではなかなか条件に応じなかったのが、裁判になった段階で相手も本気で受け取り、解決へと進むことがあります。

 また、適正な額の慰謝料を判断してもらえることもメリットです。

 さらに、相手が慰謝料を支払わない場合に、強制執行をかけられる点も挙げられます。

 逆にデメリットとしては、判決までに時間がかかることです。

 裁判手続きを踏んだ上で、判決が出るのを待つことになるため、1年程度かかることもあります。

 また、慰謝料額は裁判所が最終的な判断をするため、希望していた金額よりも下がってしまうこともあるでしょう。

 

⑶ 不倫裁判のタイミング

 不倫慰謝料を請求する場合、裁判は必ずしも必要ありません。

 通常は、話し合いで解決することがほとんどです。

 不倫慰謝料請求の流れとして次の通りです。

 1. 請求者側から相手方にコンタクトをとる(内容証明郵便など)

 2. 慰謝料請求をしたい旨を伝え、話し合いを行う

 3. 慰謝料の条件などを交渉し、内容がまとまったら示談を成立させる

 示談交渉が決裂した場合には、裁判を検討します。

 不倫慰謝料請求自体は、弁護士を介さずとも当事者間で交渉を行うことが可能です。

 もっとも、当事者間での話し合いは感情的になり、平行線となりがちです。

 当事者間で話し合っても一向に先に進まない場合は、弁護士に任せてしまう方が早く解決することも多いでしょう。

 このように、「当事者間(弁護士を含む)で交渉後、決裂したら裁判」という流れが一般的です。

2 不倫裁判の進み方

 不倫裁判は、大まかに「訴訟準備→訴状提出→出廷→和解、判決」の4つのステップを踏んで進んでいきます。

 

⑴ 訴訟準備

 まずは、裁判を提起する前の準備段階です。

 相手方との交渉が決裂した場合には、裁判を検討します。

 当事者間の交渉のみの場合でも、民事裁判を起こすことは難しいので、裁判を起こす場合は弁護士に相談・依頼することをおすすめします。

 

⑵ 訴状提出

 弁護士に依頼し、裁判を起こすことを決めたら、訴状を作成し裁判所に提出します。

 訴状は、相手の居住する住所地にある裁判所に提出するのが原則です。

 その後、裁判所から相手方へ訴状の写しが送付されます。

 訴状には、訴えの内容や裁判の期日、出廷義務などが記されています。

 

⑶ 裁判所へ出廷(当事者の主張立証)

 訴状提出から1ヶ月程度先の日程で第一回口頭弁論の期日が指定されます。

 初回は、被告が答弁書を提出し欠席することがほとんどです。

 実質的には2回目以降から当事者(あるいは弁護士)が出廷し、主張立証をすることになります。

 

⑷ 和解または判決

 主張立証が尽くされたら、事実の内容をふまえた上で裁判所から和解案が提示されるのが一般的です。

 仮に和解案に当事者それぞれが応じた場合は、この時点で裁判が終了します。

 和解案に応じなければ、当事者や証人を尋問し、主張の食い違う点を明らかにしていく過程を経て裁判官が心証を形成します。

 最終的には、当事者の主張や裁判官の心証をもとに判決が下されます。

 判決に納得できない場合は、2週間以内に控訴することになります。

 以上が、不倫裁判の流れとなります。

 全体としては早ければ半年〜1年程度、長い場合は2年を要することもあります。

3 不倫裁判に必要なもの

 不倫裁判を起こす場合、必ず必要なものがあります。

 それは、「不倫の決定的な証拠」です。

 裁判では、不貞行為があった事実について主張・立証していかなければいけません。

 この立証ができなければ、慰謝料の支払いを勝ち取ることは難しくなります。

 不貞行為とは、配偶者以外の異性と肉体関係を持ったことを指します。

 これを証明するための証拠が必要です。

 具体的には、肉体関係を示すようなメールや音声のやりとり、性交渉を示すような写真、ラブホテルから2人が出てきたことを押さえた写真、不倫を認めた会話音声などは証拠となります。

 これ以外でも、帰って来る時間が遅い日を記した日記、手をつないだ写真、第三者の証言なども補助的な証拠となりえます。

 決定的とはいえずとも、不貞行為を推測させる類のものは、すべて証拠になるため、裁判を起こす前にできる限りの証拠を集めておきましょう。

4 不倫裁判の判決と和解

⑴ 不倫裁判の判決

 不倫裁判の争点としては、不貞行為があったかどうか、不貞行為時に婚姻関係は破綻していなかったか、既婚者であるとわからない事情(独身だと騙していた事情)はなかったか、消滅時効は経過していないかなどが挙げられます。

 原告・被告の主張する内容に関する争点の結果をもとに、慰謝料請求の可否、金額が判決の内容として下されます。

 ちなみに、慰謝料の金額については、婚姻期間の長さ、子供の有無、経済的事情、不倫の期間、回数などを考慮し決定します。

 判決が確定すると、被告は判決の内容を履行する義務が発生します。

 判決で原告の請求が認められた場合は、支払うべき額を指定した上で、「被告は原告に対し××円支払え」という判決内容となります。

 仮に原告の請求が認められなかった場合には、「棄却する」という内容が示されます。

 仮に、判決の内容に従わない場合には、強制執行が可能となります。

 強制執行では、被告の銀行預金や給与が差し押さえられ、支払いに充てられます。

 このように、裁判では不貞行為等の事実の有無、慰謝料の額などが決定します。

 相手が履行しない場合には強制執行をすることができるのがメリットです。

 

⑵ 裁判上の和解は

 先にご説明した通り、不倫裁判では、ほとんどのケースで裁判所から和解が提案されます。

 これを法的には裁判上の和解といいます。

 裁判上の和解は基本的には確定判決と同じ効力があると考えられています。

 そのため、裁判外で和解をしても強制執行をすることはできませんが、裁判上の和解の場合、相手が履行しない場合は和解調書を持って強制執行を行うことが可能です。

 和解調書の内容では、慰謝料の金額や履行時期などの条件が記載されます。

 裁判上の和解に関しては、判決を待つよりも早期に解決できる、敗訴する心配がなくなる、控訴がなくなるため裁判費用を節約できるなどのメリットがあります。

 そのため、早期解決を望む場合や、相手の和解案に納得できる場合は裁判上で和解する方がよいケースも多いといえます。

 しかし、確実な証拠があり、有利な判決が得られると考える場合や和解案に納得できない場合は、和解を拒絶し裁判を続けるという選択肢も考えられるでしょう。

 このように、裁判上の和解に応じるべきかどうかはケースバイケースです。

 早期解決を望む場合や和解案にある程度納得ができるといった場合は、裁判上の和解に応じるのも1つの手段といえます。

 弁護士と相談の上、判断していきましょう。

5 不倫裁判は弁護士に相談を

 相手に不倫慰謝料を請求しようとする場合、当事者同士の話し合いでは冷静な交渉ができず、なかなか話が進まないことも多々あります。

 本当に相手に慰謝料を支払って欲しいと考えるなら、間に第三者を挟み冷静に交渉を進めていくのがおすすめです。

 弁護士なら、慰謝料の適正額や交渉のポイントまで熟知しているため、スムーズに交渉が進みます。

 仮に決裂した場合でも、裁判まで見越して交渉を進めるため、慰謝料の支払いまできっちり見届けます。

 民事裁判を起こす場合は、当事者だけでは難しいですため、弁護士にご相談ください。

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